試合

互いに持ち味を出し合った2日間、粘り強く戦った長野が逆転でF1残留(マッチレポート)

~ボアルース長野 VS しながわシティ~

Fリーグの2021-2022レギュラーシーズンは、1月末で終了している。しかし、肝心の戦いが残っていた。ディビジョン1と2の入れ替え戦だ。3月4日(金)・5日(土)の2日間、ディビジョン1で最下位となったボアルース長野と、ディビジョン2で優勝したしながわシティが、駒沢オリンピック公園総合運動場屋内球技場を舞台に来季F1で戦う最後の座を争う戦いに挑んだ。

レギュレーションは、2試合合計の勝利数で競うもの。勝利数で並んだ場合は、得失点差で決まり、同点の場合はF1チームがアドバンテージを持ち、長野が残留する。

F1チームの長野は、2018-2019シーズンにできたF2の初代王者。入替戦に勝利してF1に昇格した。しかし、F1で過ごしたここまでの3シーズンはいずれも最下位で、トップリーグの質の高さや強度の高さに苦しんできた。今シーズンも、開幕から9節までは惜しい試合はあっても勝利を手にすることができず、勝点0を更新し続けていた。そこでクラブが取った策は、監督交代というカンフル剤。10月にF1参戦初年度から指揮を執ってきた横澤直樹監督からF2優勝を成し遂げて、その後セカンドチームの指導を行っていた柄沢健コーチにバトンを託した。ここから勝点を積めるようになり、下位とはいえ、最終節まで順位を争うところまでチーム力を上げてきた。その最終節に名古屋オーシャンズに敗れて最下位が決まったが、この試合も名古屋のホームで最後の最後まで接戦を演じている。上昇気流に乗って、入替戦を迎えることとなった。

F2チームのしながわシティは、昨シーズンもF2で優勝し、JFA 全日本フットサル選手権大会でもF1チームを退けて優勝しているトルエーラ柏が前身。昨シーズンのレギュラーシーズン終了後に開催される予定だった入替戦に出場する権利は得ていたが、F1ライセンスが取得できず、入替戦そのものを辞退した。今シーズンは、心機一転、ホームタウンを移してクラブの体制を整え、リーグ戦に参戦。再びF2で11勝3分1敗と2位のデウソン神戸に勝点9差とダントツの実力を発揮して優勝し、入替戦を戦う権利を得ている。選手の多くが自分たちのフットサルを信じ、クラブの姿勢を信じて、このチームで戦うことを選んで移籍することなく昨シーズンから在籍している者ばかり。その悔しさを糧に今シーズンを戦い抜いてきた。今シーズンは、F1で戦うライセンスについてはすでにクリアしている。選手たちは、2年分の思いを闘志に変えてピッチに立った。

1回戦は、F1で戦う実力を証明したしながわが勝利


来季、トップリーグで戦うか、1つ下のカテゴリーで過ごすか。それはクラブとしても、選手にとっても、大きな分かれ目。クラブや選手の価値に関わってくる。大きなものを背負って戦う選手たちが入替戦を前にして緊張するのは当然。試合前のアップから気合の中にも張り詰めた空気が伝わってくる。また、入替戦自体がコロナ禍の影響で2回延期になっていることからどちらのチームも長く試合からは遠ざかっている。そのため試合勘などへの影響が心配された。

しかし、試合が始まれば両チームとも集中力を発揮し、立ち上がりから試合の主導権を握るべく、全開で自分たちのフットサルを表現する。攻撃の比重が高いのは、しながわ。こなれたパス回しからタイミングを見計らって裏を狙う。とはいえ長野も丁寧なディフェンスを行い、最後の最後はゴレイロの山口友輔選手が体を張って決定機を止める。マイボールの時間は少なくても、チャンスは逃さず攻め込み、キックインなどのセットプレーでも多彩なコンビネーションを見せた。

そんな中、先制したのは、そのセットプレーを活かした長野。相手陣内深い位置でのプレスが功を奏し、コーナーキックを獲得。ニアで構えた松原祥太選手が放ったシュートを、一度はしながわのゴレイロ・柿原聡一朗選手が止めたものの、再び松原選手がこぼれ球を拾い、いっそう鋭いシュートを蹴り込んだ。

リードした長野は、徐々に攻撃を形にする時間が増えたが、大きく形勢は変わらず、ボールを握る時間が長いのはしながわという状況でハーフタイムを迎えた。

セカンドピリオド、しながわはファーストピリオドでは見せなかったセットで試合をスタート。より機動力を高めて攻撃を展開する。リードする長野も守りにまわることなく、積極的な仕掛けを見せていく。しかし、時間が経つにつれてボールを支配する時間が長くなるのはしながわ。長野も前にボールを運ぶ機会はあるが、多くの時間を守備に割くこととなっていた。ともに得点ができないまま時間は過ぎていく中、しながわが勝利へ強い執念を見せ、より攻勢を強めていく。

待望の同点ゴールは、際どいシュートから得たコーナーキックから白方秀和選手が決めた。ゲームは振り出しに戻ったようだが、同点では長野にアドバンテージがある。より得点を求めるしながわと、このままでもいい長野という構図でゲームが進む中、しながわが再びコーナーキックを獲得。残り時間1分強というタイミングで佐藤建也選手が決勝点をボレーで決めて、勝利を収めた。

初戦は、勝利が必須のしながわがタスクを全う。最少得点差ではあるが、タフなゲームを制した。

トップリーグでの経験を活かして粘り強く戦った長野が逆転勝利でF1残留


初戦の勝利をしながわに譲った長野は、第2試合は最低でも勝利が必要だ。逆にいえば勝利すれば1点差でもいいということ。その状況をどう捉えているのか。しかし、長野の選手が落ち着いているように見えたのが印象的だった。

試合はキックオフ直後からお互いに様子を伺うようなことはなく全開で挑む。とはいえ失点をしたくないという思いは両チームともにあるようで緊張感は強い。そんな中、得点が必要な長野がより積極的に攻撃を仕掛けていくが、時間が経つごとに互いの特徴が出てきて、しながわがやや長くボールを支配し、長野が丁寧な守備からマイボールになるとカウンターなどで隙をついていくシーンが増えていく。

互いに均衡を破れないまま長い時間が経過したところで、そのバランスを破ったのはしながわ。シュートまで持ち込んだ後に2度続けて獲得したコーナーキックから野村啓介選手がゴールを決めた。攻撃のリズムを掴んだしながわは、その直後にボラ選手が出場。味方ボールになると見るや、前線に走ってボールを受けてシュートを放つシーンが増える。

その繰り返しの中、ゴール前でパスを受けたボラ選手がゴレイロを足技でかわし、追加点を決め、リードを2点に広げた。

ハーフタイムを迎えてロッカールームに向かうところでしながわの柿原選手が「まだ終わってない、20分あるぞ」とチームメイトに声をかける。

その言葉に2年間積み上げてきた思いが見えた

セカンドピリオド、F1に残留するために3点が必要な長野は、キックオフ直後からパワープレーを開始。相手陣内で試合を進めていく。そんな中でもマイボールになると、相手ゴールまで迫るしながわ。しかし、鋭いシュートも長野のゴレイロ山口選手が神がかったセーブで止める。すべてのプレーが大きな結果につながる緊張感が漂う中で、試合が進んでいく。

長野のパワープレーと合間にあるオープンプレーの攻防を繰り返しながら時間が経過する中、長野はパワープレーからディフェンスの背後を取った上林快人選手がゴール。1点を返した。セットプレーが得意な長野は、パワープレーの形も多彩。得点したことで自信を持ってボールを回していく。2点目は、パワープレーで頂点に位置する米村尚也選手からゴール右に位置する田口友也選手への長いパスから生まれた。ゴレイロの横からコースを変えてゴールに流し込み、同点とした。

キックオフ前にしながわはタイムアウトを取得。ここで一旦流れを切って守りきれば、しながわが昇格となる。しかし、長野がもう1点取れば形勢は逆転、F1チームが持つアドバンテージが生きてくる。

試合再開直後、しながわはセットプレーのチャンスを掴むがゴールは決まらず、その後は再び長野がパワープレーを仕掛けていく。しかも長野は、クリアされたボールもすかさず拾ってパワープレーの陣形を崩さず試合を進め、しながわは、マイボールにする糸口が見つけられずに守備せざるを得ない状況が続いていく。2得点したことで長野は試合の主導権を握り、自分たちのリズムでパワープレーを仕掛けていく。

逆転のゴールを決めたのは、キャプテンの青山竜也選手。上林選手がゴール左に陣取った青山選手へ鋭いパスを送り、そのボールを確実に右足に当ててゴールした。その後、しながわがパワープレーを行ったが、得点までは至らずタイムアップを迎えた。

両チームの選手ともに試合のレギュレーションは理解している。2日間の決戦の終わりを告げるブザーが響いた瞬間にしながわの選手はピッチに倒れ込み、長野の選手は歓声をあげて抱き合った。

結果は、1勝1敗、得失点差なしでアドバンテージのあるF1チームの長野が残留することとなった。お互いに持てる力を尽くして戦った80分。何が勝敗を分けたのか、本当のところはわからない。それでも長野が3シーズンの間、最下位でもトップリーグでもがいてきたその経験が紙一重の差を生んだのではないだろうかと思える結果となった。

▶Text by 小西 尚美
▶Photo by 小西 尚美
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