JからFへ。違う競技で同じ湘南ベルマーレのエンブレムをつけて選手として活躍した菊池大介。昨年の大晦日、突然の引退がリリースされた。ホームアリーナでサポーターに直接あいさつするための、ギリギリのタイミングでの公表だった。
菊池が引退の挨拶に選んだ舞台は、1月5日(日)にホームの小田原アリーナで開催されたヴォスクオーレ仙台戦。試合への出場時間はわずかだったが、ファーストプレーで見事なゴールを決め、詰めかけたサポーターに存在感を見せつけた。
試合後のミックスゾーンで、引退について改めて話を聞いた。
ミックスゾーン
湘南ベルマーレ菊池大介選手
ーーファーストプレーで決めたゴールから振り返っていただけますか?
今日を迎えるにあたって、最後ですし、特別な感情はあったし、小田原でゴールを決められてなかったので、最後はなんとかホームでゴールを決めたいなという思いがありました。でも、(思いが強すぎて)硬くなりすぎると自分が良くなくなるんで、本当にいつも通り、出たら平常心でしっかりやろうと考えるなかで、味方がいい形でうまく繋いでくれて、ファーストプレーというか、ファーストタッチで、いいところに置いて、タイミングをズラして決められました。あんまり考えてなかったというか。自然と体が動いてあのプレーにつながったので、試合の入り方とか、持っていき方というのがすごくうまくいったなと思います。すごく気持ちよかったですね。
ーー動き出しのタイミングもそうですし、股を抜いてのゴールというところも、フットサルらしいゴールだったと思います。そこについて今、自然に何も考えずにと話されていましたが、フットサルらしさが身についた感覚はありますか?
いや、まだまだですけど、1年目や2年目の最初に比べると、要所要所で考えなくても自然にできるプレーだったり、練習でやっていることを考えずに自然とうまく発揮できる、そういう時間はちょっとずつ増えてきたなという実感は持ってます。ただ、今日もそうですけど長い時間(試合に)出たりとか、うまくいかないプレーだったりとか、もうちょっとこうしてればなっていうものも、練習でもまだまだたくさんあります。そういう意味では、まだまだフットサル選手としては、自立できてないなと思います。
難しいですけど、それが辞める要因というところもあります。セレモニーでも言ったんですけど、来年再来年で自分が描いているフットサルでの成功というところに辿り着けるのかということを考えたときに、第一線でやり続けている選手を見ているので、難しいだろうなというところで。フットサルに、この世界に、自分が長い期間本気で向き合うことは、次のビジョンだったり、今やっていることを考えると、正直、難しいなというところ。苦しい決断ではあったんですけど、今季やりきって終わろうという判断になりました。
ーー今シーズン、ゴールも決めてプレーできる楽しさも感じられたからこそ、悩んだのではと思いますが?
悩みましたね。悩みましたし、やれる自信もあるし、楽しいし。この世界で成功したいという思いはもちろん持っていますけど、自分には先の人生がまだまだありますし、家族のことも含めていろんなことを総合的に考えたときに、フットサルを本気でやり続けることがポジティブなだけではないなというか。難しいですけど、やり続けながら次の世界に向けてというところで、それが壁になってしまう部分もあるなというのを感じるなかで、いろんなことを考えてみたんですけど、やっぱり最終的には今季でしっかりやりきって、卒業しようという決断に至ったということですね。
ーー決めたのはいつごろですか?
最終的に決めて、クラブに伝えようと思ったのは、1カ月前ぐらいです。
ーー家族にも相談して?
家族には、ずっとどうしようかという話をしていました。決めてからは家族は自分の決断や思いを尊重してくれました。今までもそうですけど。しっかり自分で決めて、家族にも伝えたという感じですね。
ーー改めて、フットサルに転向するというところに関して、どういう思いで転向を決めて、やってみてどうだったかというところの総括をお願いします
Jリーグでは最後に(FC)岐阜でプレーして、次の年は契約がないというなかで、もちろん最初はサッカーを続けるつもりで、いろんなクラブや関係者と話をしました。そのなかで、今後どういう人生をたどるのかという自分のビジョンのところで、やっぱり自分の中には「ベルマール」という存在があって、「ベルマーレで何かしたいな」「ベルマーレで何かチャレンジができないかな」と探るなかでフットサルに辿り着きました。僕は小学校の頃にフットサルをちょっとやっていたこともあったし、(Jリーグの湘南)ベルマーレでプレーしているときもFリーグの存在があって、ここ(小田原アリーナ)に見に来たこともあります。そういうことを踏まえて、このチャレンジは誰もしたことがない、誰もできないチャレンジになるんじゃないかなというところで、本当にたくさんの方々の協力があって、この挑戦が実現しましたし、2年間本当に充実していました。
サッカーとフットサルが全く違うスポーツだというのは、練習参加をした最初で思い知らされました。自分が今までやってきたものが崩れ落ちていって、ここでは何もできないんだなというところで、逆にそれが悔しさや自分の負けず嫌いに火がついたというか。ベルマーレのエンブレムを着けて、こういう難しいチャレンジを成功させたいと決断して。2年間、いい時も悪い時もありましたけど、正直、この2年で辞めるのはすごく悔しいですし、申し訳ない気持ちももちろんあります。ただ、それよりもやっぱり自分は次の道、今後の成功を求めて次に進むというか。
ただ、フットサルというところでは、Jリーグと比べてもフットサルはまだまだ盛り上がってない。こんなに魅力的で価値のあるスポーツなのに、何でこんなに観客が入らないんだろうとか、なんでニュースをやらないだろうとか。代表もあれだけ素晴らしい選手がいて、アジアで優勝したりしているなかで、なぜメディアに取り上げられないんだろうとか。いろんなことを考えて、自分もいろんなアクションを起こしたつもりですけど、やっぱり自分の力だけじゃ何かを変えるというのは難しかったです。だからこそやっぱりFリーグや各チームは、もっともっとFリーグを広めてほしいなと思うし、そういう努力をもっとしてほしいなと思います。僕ごときですけど、こうやって引退はしますけど、今後もFリーグだったり、ベルマーレのフットサルクラブというのは応援しつづけますし、小さいかもしれないですけど僕もやれること、何か協力できることがあれば、Fリーグの発展というところに、何かしらの形で貢献できたらうれしいなという思いもあります。一緒に日々やっている選手たちに報われてほしいなというか。すごい上から目線みたいになりますけど、そういうことを感じたというのはありますね。
ーー伊久間監督が会見で3年やればいい選手になるとおっしゃっていたが、そこは菊池選手がいうところのフットサル選手としての成功ではないわけですか?
そうですね。未来のことはわからないので、本気で向き合ってやれば、もしかしたら来年、自分の描いた成功をつかめるのかもしれないですけど。ただ、自分の描いているところにたどり着くのは来年は無理だなというのは、自分が一番わかっているというか。それはこの世界に入って身をもって感じた部分です。そんなに甘い世界じゃない、厳しい世界だなというのも感じた中で、自分自身でそういう決断を下したので。ありがたいことに、監督を含め、見に来てくれる人たちだったり、関係者の方だったり、「もうちょっとやれば」「もったいないな」と言ってくれる方もたくさんいます。でも、そこはもう自分の判断なので。そこに対して後悔はしたくないですし、最後にやりきって、タイトルを取って終われれば、僕自身はすごく気持ちよく辞められるかなと思ってます。
ーー求めている成功というのは、どういったところですか?
一番簡単に言うと、「日本代表になって、ワールドカップに出る」。それが自分の成功です。まずは本気でそれを目指してこの世界に足を踏み入れました。ただ、そうやって踏み入れた結果、自分で感じるものはたくさんあって、それが3年4年では正直難しいなあというものを感じたというところですね。
ーー競技としてフットサルをやって、その競技をする人として感じたフットサルの魅力というのはどういったところですか?サッカーと比べてではなく、どう感じたか、教えてください
難しいですね。
練習に参加して、フットサルの世界に足を踏み入れたときに、自分が十何年Jリーグでやってきたものが通用しないなというか、すごく違うなというか。なんて言えばいいんだろう。意識もそうですし、自分でやってきたものを全て「なくす」わけじゃないですけど、1回リセットしてフットサル仕様にしたり。考え方とか、頭をちょっと切り替えないといけないなというところで。そこでやっぱり悔しさもあったし、難しさもあったんですけど、逆にそれが楽しさだったり、そこで成功体験をしたときの喜びだったりというところが、自分にとっての「フットサル」の魅力だった。本当に一瞬一瞬の駆け引きだったり、セットプレーの駆け引きだったり。もう本当に一瞬で世界が変わる。サッカーももちろんそうなんですけど、サッカーよりもちょっとした、もう本当に0.00何秒とかっていう、本当にちょっと「こうしたら」とか「こうすれば」とか、「こうなったから」「こう入れられた」とか。本当にそういう世界だし、僕はそこにおもしろさを感じていました。
逆に、そこの難しさというか、自分がその「フットサル」というところにまだまだ適応しきれないというか、そこを感じたところが引退にも繋がったと思います。そこをクリアにして、そこを本当に細かく感じてやることができれば「日本代表」になれるなと思う。やっぱりフットボールはフットボールなので、自分がやってきた技術だったり、コーディネーションだったり、フィジカルっていうところは、全然通用するし、僕が一番だなと思ってやってきましたけど、ただそれだけでは成功できない。本当にいろんな細かいことを覚えなければいけない世界だったので、そうですね、そこが一番の楽しさでもあり、難しさでもありというところで辞める決断をしたところもありますね。
ーー2000年代からJリーグで活躍する菊池大介選手を見てきて、そこからFに挑戦することについてはすごくびっくりしましたが、ベルマーレに戻ってきてくれたというのはサポーターにとって非常にうれしいことだったと思います。サポーターに伝えることはありますか?
本当に感謝しかないです。僕自身も大好きなクラブで、自分を育ててくれた、菊池大介という人間を形成してくれたクラブですし、そういう出会いが本当に詰まっている。ここで競技は違いますけど、こうやって戻ってきて、みんな「おかえり」っていってくれたり、次のチャレンジも応援してるよと言ってくださったり。今日のホーム最後の試合も「大介が最後なら行くよ」と言ってくれたり、「最後、見に行くね」って、「活躍期待してるね」って言ってくださる方が本当にたくさんいて、本当に愛されてたなって、自分で思います。そういう人たちに支えられてきたなと思うし、そういう人がいなかったら今の自分はないと思っているんで、だからこそ、今日ゴールという形、目に見えるもので皆さんに届けられたのは、大きかったです。そのあと出られなかったり、もちろん悔しさの方が大きいですけど、でも、自分のやってる姿を最後皆さんに見せられたというのは、やってきた甲斐があったかなと思います。もう感謝しかないですね。
ーー1年目は特に試合に出られなかったが、その悔しさとは?
自分が14年15年Jリーグでやってきたものがこんなにうまくいかないんだって、こんなにピッチで発揮するのに時間がかかるんだって、自分自身にも苛立ちを覚えましたし、悔しさもありました。練習でめちゃくちゃ調子良くても、やっぱりフットサルを覚えてないから、試合ではやっぱり使えない。それは自分でも理解した中でも、悔しさはすごくあったし、なんでだろうという思いもあった。でも、そういう思いをするだろうなというその覚悟を持ってきましたし、1年目は試合に出られなくても、しっかり腐らずにというか、やってきたことを信じてやり続けようっていうところで、今季に入って、伊久間さんから課せられた3点というのも今日で達成できましたし、自分を信じてやってきてよかったなって今はすごく思っています。
ーー伊久間監督から課せられた3点というのは?
シーズン前の最初のミーティングで、それぞれの選手にノルマというか、この得点数は必ず達成しようというのが与えられるんですけど、昨シーズン初めてフットサルの世界に来たときは、そこに僕の名前がなかったんですね。なんですけど、今年は「菊池 3点」って書いてあって(笑)。そこもすごく期待の現れだなって感じたし、達成しなきゃなって思いでいたのと、プラス、ホームで決めてなかったんで、今日達成したいなという思いでいたので、それが実現できてすごくうれしいです。
ーー今後の目標や未来についてはどんなことを考えていますか?
Fリーグだったり、フットサルクラブというところで、自分に何ができるのかはわからないですけど、何かしらの形で今後も貢献していけたらすごくうれしいなという思いは、持ってます。こうやってベルマーレのエンブレムをつけて、僕は選手としてフットサル選手をやってますけど、Jリーグのスタッフもやっているなかで、そっちの貢献もしていきたいと思いますし、それ以外にも自分のビジョンというか、やりたいことだったりとか、やれることだったり、自分に何ができるのかっていうところをしっかり考えて、次の道を決めたいなと思います。選手を辞めて次の道に進んでも、自分のした決断にしっかり自信を持って本気で取り組んでいる姿とか、やっている姿というのは必ず誰かが見てくれていると思っていますし、そういう思いで僕はずっとやってきたので、それだけは忘れずにやっていきたいなと思います。
ーー監督が今日は大介が泣くプランで行こうっておっしゃっていましたが?
ミーティングでスケジュールがもう書いてありました(笑)。熱狂させて、しっかり会場を盛り上げて、勝って、最後大介が泣いて、引退挨拶って書いてあったんで。それを見たときは、「絶対泣かないけどなぁ」って思ったんですけど、なんかあそこに立ったら、自然と感情が湧き出てきて、ちょっと涙しちゃったんですけど。やっぱりそれだけこのクラブを僕は愛してましたし、フットサルクラブに対してこう、何かしたいっていう思いでやってきたんで、そういう思いを、最後形にしたいなって本当に思いますね。このクラブはタイトルを取ったことがないので、そこに。試合に出ても出なくてもそこに自分がしっかり貢献して終われれば、こうやって帰ってきた甲斐があったし、帰ってきて応援してくれる方々への恩返しにになると思ってるんで、最後までしっかりやり切って終わりたいなと思います。
▶Text by 小西 尚美
▶写真提供 湘南ベルマーレフットサルクラブ
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