試合

お互いの意地がぶつかり合った試合はスキを逃さない湘南が勝利

~湘南ベルマーレ VS 立川・府中アスレティックFC~

3月14日(日)、延期になっていたF1リーグのラストマッチ、湘南ベルマーレ VS 立川・府中アスレティックFCが駒沢オリンピック公園総合運動場屋内球技場で開催された。シーズンオフを目前にして引退や退団が発表され始め、このメンバーで戦う最後の試合でもある。入場制限があるなか、両チームのサポーター合わせて300人が試合を見守った。

この試合は、どちらも勝てば順位が上がるため、消化試合にはできない位置付け。しかも、5位湘南が勝つと、4位の立川・府中と勝点で並び、得失点差の関係で順位が逆転するという直接的な影響がある。4位立川・府中が勝った場合は、3位のペスカドーラ町田と順位が入れ替わるのでより上位で今シーズンを終えられる。全日本選手権を挟んで、2週間ぶりにリーグ戦が開催されるという変則的な日程ながら、お互い負けられない気持ちを全面に出した戦いとなった。

1stピリオド、先制したのは湘南。ゴレイロのフィウーザ選手がディフェンスのカバーのために前に出て、クリアボールをそのままシュート!見事にゴールに吸い込まれた。その1分後は立川・府中の攻撃、カウンターの流れから完山徹一選手がゴール前へ。翻弄する動きでオウンゴールを誘って早々に同点とした。その後は、お互い主導権を争う形。9分に再びゴール前で形を作ったのは湘南。本田真琉虎洲選手がタメを作って2人を引きつけ、フリーになったロドリゴ選手がパスを受けて、そのままゴール。その1分後にはお返しとばかりにロドリゴ選手がラストパスを本田選手に送り、フリーで得点を決めて3対1とした。
 

2ndピリオドに先制したのは立川・府中。カウンターからの流れで内田隼太選手が決めて1点差に。その後も流れは立川・府中にあるものの得点を奪えずにいると、湘南が一瞬のミスを見逃さずインターセプト、フリーのロドリゴ選手が長いループシュートを放ち、再び差を広げる得点を決める。その後、立川・府中はパワープレーのなか、内田選手が目の覚めるミドルシュートを決め、1点差に詰め寄るものの反撃及ばず、タイムアップを迎えた。

この結果、リーグ戦の順位は、湘南が4位、立川・府中が5位でのフィニッシュとなった。

結果は残念だったが、最後の1秒まで選手は戦ってくれた


立川・府中アスレティックFC 
山田 マルコス 勇慈監督
ーー試合を振り返って
山田
「まず自分が病気になって試合が延期になってしまい、サポーター、スポンサー、Fリーグに関わる皆さん、申し訳ございませんでした。

試合を振り返って話をすると、湘南ベルマーレはカウンター狙いで来ていたのですが、自分たちのミスが続いてしまい、流れを奪ってしまいました。後半は、なんとかやり返せるよう、いろいろ考えましたが、前半と同じようなミスで流れを奪ってしまいました。パワープレーで対抗しましたが、反撃を開始するのがちょっと遅かったと思います。

残念ながら負けてしまいましたが、自分の選手たちはよく頑張ったかなと思います」

上村充哉選手
上村「ちょっと予想していない日程になって、調整とかも難しかったんですけど、僕たちはいつもの1試合と同じように準備してきました。そのなかでやりたいことができたこともあったし、逆に湘南に抑えられたところもあって、そこは湘南の良さが出た試合だったかなと思います」

ーー黒本ギレルメ選手、渡邉知晃選手、上福元俊哉選手は今日が最後の試合でしたが、どんな話をして今日を迎えたのでしょうか?
山田
「みんなチームや次の世代に、いろいろなものを伝えてくれた選手なので、最後に絶対に勝利してお別れをしようと考えていました。そのために、通常通りリーグがあるという感覚で練習を続けて、みんな必死になってこの試合に臨みました。残念ながら結果はうまくいきませんでしたが、うれしかったのは、最後の最後、1秒までみんなが戦ってくれたこと。最後までなんとかやり返そうとしてくれて、彼ららしいプレーができたんじゃないかと思っています」

上村「試合のことで言うと、今監督が言ってくれたように勝てなかったので残念ですけど、今、引退と退団を表明している選手はみんなアスレに大きなものを残してくれたと思ってます。僕が21歳か22歳で入ってきたときに、渡邉選手とか黒本選手に本当にいろんなことを教えてもらいました。上福元選手は、今年1年しか一緒にやってないんですけど、本当に聞いていた通りの選手で、ピッチ内、ピッチ外において本当に素晴らしい選手だったと思います。田中俊則選手(2021年1月31日に引退)は、少し早く終わってしまったんですけど、いつも的確なことを、言いにくいこともあったと思うんですけど、僕にいつも厳しいことも言ってくれました。今、(引退や退団を)表明している4人には感謝しています」

ーー今年1年の総括をお願いします
山田
「チームは、最初スタートしたモデルと、途中から変わりましたが、それが一つの大きな決断でした。うまくいかないと思ったら、迷わずにやめること、方向性を変えることが必要なときもあるということが、一つの大きな勉強になりました。もちろん、一度決めたらそのままブレずに真っ直ぐいくことが必要なときもあります。でも、変えないといけない、間違ったと気づくことも大切なことだと思いました。

それから選手をもっともっと信じてあげないといけないというのは、一つ反省としてあります。この1年は、シーズン中にコロナなどいろいろあって、プレシーズンの時間もコントロールするのが難しかいというのがあったのですが、でもモデルを変えたことおかげでチームの色がだいぶ変わって、うまく良さが出たんじゃないかと思います。今日の結果は残念でしたけど、1試合のなかでも成功したシーンがあることを見ると、結構立派に静養できたかなと思います。しかし、もっともっと成長できたと思うから、正直フラストレーションがあります。このメンバー、この選手たちでもっといけたと思いました」

上村「今季の良かったことで言うと、例えば、前半リードされていても後半に逆転にできる力がついたなっていうのはすごい良かったかなと思います。課題で言うと、いろいろあるんですけど、負け試合をひっくり返せなかったっていうか、2年前にプレーオフに行ったときは、負け試合を最後の最後で追いついたり、逆転したりで勝ち試合にしていたんですけど、今季は負け試合が負け試合のまま終わっちゃったかなというのがすごくもったいないなと思いました。

今日の試合は負け試合ではなかったと思うんですけど、そういうところもひっくり返せなかったんで、うちの弱いところでもあるし、相手が強かったかなと思います」

登録選手に久光の名がある最後の試合、勝てたことがうれしい


湘南ベルマーレ 奥村敬人監督
ーー試合を振り返って
奥村「お疲れ様です。ケガ人が2人いまして、14人登録できるところ12人登録し、まして1年半くらい勝ってない立川・府中アスレティックFCさん、非常に厳しい戦いになると思ったんですけど。久光(重貴)のためにというか、久光が選手として登録されている今シーズン最後の試合、登録用紙に「久光重貴」という名前が入っている最後の試合で、選手一人一人が、普段彼と接した日々というのをすごく感じるものがあったと思いますし、そのなかで本当に最後まで40分間、持てる力を発揮し続けてくれて、なかなか勝てなかった府中さんに勝てたというのは、クラブとしてすごく大きなことだったのかなと思います。

内容も、府中さんのストロングポイントをしっかり押さえて、ピヴォ当ての攻撃を遮断することもできたと思います。もちろんピンチもありましたけど、そのなかで効率の良いカウンターだったりで、もっと点を取るチャンスはあったんですけど、しっかりゴールを決めてくれて、基本的に自分たちが有利な状況で試合を進めることができたのかなと思います。

感情的にすごく難しい試合というか、コロナ禍で今シーズンはすごく大変だったんですけど、全日本選手権が終わってからリーグ戦を戦うというのは、未だかつて経験したことがなくて、そのなかで2週間空いた時間を、どうやってモチベーションを上げていくかということが非常に難しかったですね。ただ、そんな状況でも自分たちに消化試合はないと思いますし、クラブのポリシーでもあります「最後の0秒まで全力で戦う」ということを選手たちが体現してくれたことに本当に感謝しています。

ほかにもいろいろな部分、クラウドファンディングでたくさんの方々が協力してくださって、目標金額の500万円を試合前に達成したということもありますし、昨日のJリーグで、湘南ベルマーレ、Jの方が勝ってくれて自分たちに勢いを与えてくれたっていうのもあります。スタンドを見たら、たくさんのファン・アポーターの方が後押ししてくださって、久光の横断幕も掲げてくれたりとか、終わったあとにもいろいろメッセージのある言葉をいただいたりとか、本当に自分たちは幸せなクラブで、たくさんの方々に支えられて試合ができているんだなというのをあらためて、1年間やって、さらに今日、感じることができた1日だったのかなと思います。

順位は、去年の5位より、1つ上がって4位になったんですけど、去年の主力メンバーがかなりいなくなって、今シーズン加入したのが下部組織からの昇格というところで、「湘南やばいんじゃないか」という下馬評があったと思います。シーズン最初の練習のときに、その世論を見返してやるという話をしたんですけど、若い選手もそうですし、中堅もベテランも、常に向上心を持って一つ一つのプレー、練習から取り組んでくれたということが、満足はできないですけど、今回の4位という成績につながったのかなと思います。

とはいえ、最後に久光に会ったときに、必ず日本一になってくださいという言葉が彼からあって、その目標を達成できてないというのが現状ですし、それは本当に追い続けないといけないことだと思います。そのためにもまだまだ彼と戦いたい。彼は自分たちの心のなかにいますし、まだ志半ば、というか全然何も達成できてないクラブだと思いますので、全員で一丸となって、もっともっとたくさんの方々に愛されるクラブを目指して、これからも最後の0秒まで全力で戦う集団でありたいと思います」

上原拓也選手
上原「お疲れ様でした。コロナ禍ということで、この試合も2回の延期があったなかで迎えた試合ですし、監督も言った通り、すごく難しい心理状態のなか、トレーニングしたり、今日の試合を迎えたり、本当に何が起こるかわからない1シーズンだったのですが、今日最後、チームとしては勝って順位を上げるという目標を持ちながら戦って、結果がついてきたことはうれしく思います。立川・府中さんには引退する選手もいましたし、向こうもすごく思いを持って戦ってきてるのがすごく伝わりました。そんななかでもしっかりと結果を残せたことは良かったのかなと思います。

今シーズン、本当にたくさんのことがあって、ヒサさん(久光重貴選手)が亡くなってしまったり、試合が延期になってしまったり、本当にいろいろなことがありましたけど、本当に当たり前のことは当たり前じゃないということを痛感しました。そのなかでも大好きなフットサルができたのは、本当に陰で支えてくれる方々がいたおかげだと思っています。

今日は登録用紙にヒサさんの名前が入る最後の試合だったんですけど、亡くなってからヒサさんの偉大さっていうのをより感じていて、本当にいろんな人に影響を与えていた人だったんだないうのはすごく感じています。僕たちは、ヒサさんの背中を見てきましたし、僕は中学生の頃からFリーグの設営を手伝ったりしていたんですけど、共にプレーした時間もありましたし、見てきた選手たちが次の世代に繋いでいかないといけないし、これから下部組織から上がってくる選手もたくさんいると思うんですけど、そういう選手たちにとってベルマーレという場所は、すごく目指したい場所だと思えるように、僕たちもそういう場所を作っていかないといけない。僕たちが未来を作れる選手、スタッフだと思っているので、来シーズンもコロナ禍のなかですごく難しい状況だと思うんですけど、ヒサさんが言っていた「常に前を向いて」前進していけるように頑張りたいと思います。応援ありがとうございました」

ーー得点がすべてカウンターで、特にロングシュートが2本入ったが、相手ゴレイロが上がるタイプであることでチームとして共有したことがあったのでしょうか?
奥村「ロングシュートっていうのは、フィウーザのは正直、狙っていたっぽかったですけどね、目の前で見ていて、でもまぁ流れじゃないですかね、もちろん黒本選手が上がってくるっていうのはわかってますけど、そのなかで状況を見て、選手が、フィウーザもそうですし、ロドリゴもしっかりと決断してくれたというところ、だと思います。その瞬間瞬間での判断が素晴らしかったのかなと思います。あそこで一つでもプレーを止めてしまったら、あのゴールは生まれなかったと思いますので、そこはしっかり見ているっていうところかなと思います」

ーー後半2点リードした時点で迷わずゴレイロを上原選手に替えましたが、どういう判断だったのでしょうか?
奥村「拓也を使ったのは、使いたいって思ったからです(笑)。ここで使いたいって思ったから、「拓也行け」っていう。前から言ってますけど、使うタイミングがあったら使うというところで、このタイミングだって自分のなかで、まぁ直感というか、そこを信じて。実際かなり止めてくれましたし、フィウーザも拓也をリスペクして、迷わず交代してくれた。2人の関係というのは本当に素晴らしいし、2人が力を合わせて勝たせてくれた試合というところですかね」

ーーさっきおっしゃった久光選手とのエピソードはいつ会ったときのものかと、来季監督を務めるのか言えるのであれば、優勝に向けてどういうチーム作りをしていくのかを教えてください
奥村「久光とは、亡くなる1週間前くらいに久光の自宅で会うことができて、そんなにたくさんのことを話すことはできなかったんですけど、彼とは13年間戦ってきましたので、思い出話しをしたなかで、自分たちはまだ日本一になってないんで、日本一になりましょうという話をしました。それは昔からずっと、彼とだけではなく、思ってきたことなので、その思いはしっかりと引き継がないといけないことなのかなと本当に思っています」

広報「来季の件はクラブからのリリース(※)をお待ちください」
※奥村監督の続投が3月14日にクラブから発表

ーーあのタイミングで試合を託された気持ちと、タイムアウトのときにフィウーザ選手からアドバイスをいただいていたようですが、言える範囲でどんな内容だったか教えてください
上原「はい、僕自身、今日はスタメンじゃなかったということで、ただチームがリードしてくれればチャンスがあることを信じながら、アップをしていました。今シーズンはキャプテンを託されましたけど、正直僕のなかでやりきれなかった部分はたくさんありましたし、やっぱりもっとプレーでチームを引っ張りたいと思っていたなかで、すごく不甲斐ないシーズンだったと感じていたので、今日は最後までしっかり自分のプレーを出し切ること、やり抜くことを頭に入れながら、考えてプレーしてました。

タイムアウトのときのフィウーザのアドバイスは、その一個前の相手のパワープレーで、左サイドにいた堤(優太)選手がセグンド(ファー)へパスを出すことを僕が読んでしまっていたので、フィウーザがまずはシュートをしっかり守れよということを言ってくれました。僕もそこは頭に入れて、実際にタイムアウト後にまた同じポジションで堤選手にボールが来たときにはシュートを打ってきて、すごく彼の助言に助けられた部分がありました。

ああやってベンチに下がったあとも僕に対して指示を送ってくれる彼の人間性というのは、本当に素晴らしいと思っています。今日の1点目も、今シーズンはめずらしくパワープレー返しを決めてなかったフィウーザが最後の試合で決めてくるのは、本当にさすがだなと自分も思いました。ただ、僕の土俵はやっぱりピッチに立つことだと思っているので、そういう姿を見せていけるようにまた来シーズン頑張りたいと思います。以上です」 

Text by 小西 尚美
Photo by 湘南ベルマーレフットサルクラブ
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