選手

フットサルと人生を歩む

~女子選手の「続ける」という選択~

男子選手より女子選手であればなおさらだ。フットサルとともに人生を歩むことは、想像以上に難しい。 

大学でサッカー、社会人でフットサルに出会う


3月中旬の夜、気温は4度と冷え込んだ。和歌山県内の野外施設で、セットスター和歌山レディースのメンバーがゲーム形式の練習で息を弾ませる。

選手の平 麻由美さん(31)はピッチの外から「最後のパスしっかり」「撤退、撤退」と仲間に声をかけ、転がったボール拾いを繰り返す。前十字靭帯断裂の大怪我から復帰に向けてリハビリ中だが、練習にはほぼ毎回顔を出している。

ようやくジョギングと、少し蹴れるようになったが、チーム練習には合流できていない。例年通りにいけば、5月にもセットスター和歌山が参戦する関西女子フットサルリーグが開幕する見通しだ。

平さんは「早くみんなと蹴りたいけど、足の筋肉を戻さないといけないし。怖さはありますが、思いっきり走りたい」と複雑な心境を話す。

島根県出身で、小中高はバレーボールを続けた。進学した和歌山大学でサッカー部に入るきっかけは、友人のこんな一言だった。

「サッカー部の体験に参加したいから、ついてきてほしい」

付き添いのはずが、いつの間にか自分もボールを蹴っていた。「新しい競技もいいかな」。そんな軽い感じで、フットボール人生がスタートした。

和歌山大学の女子サッカー部は、経験者よりも、初心者が多いチームで、楽しい雰囲気で基礎練習から始めた。最初の公式戦は大阪体育大学に19対0で負けた。

なかなか勝てなかったが、仲間と得られる勝利の喜びに引き込まれていく。「上手く相手を抜いた」、「シュートが良いコースに決まった」。自分が上達していく実感があったことも、4年間サッカーを続けられた。

大学卒業後に小学校教諭に就いた。女子社会人チームでサッカーを続けていたところ、友人に誘われてフットサルに出会う。

「最初は展開が早いし、動き方がわからなかった。けどボールにたくさん触れるところが面白かったですね」。和歌山県リーグに所属するフットサルチームに入り、3年間プレーした。

プライベートでは25歳で結婚。夫は同じ教諭で、サッカーの指導者でもある。

セットスター和歌山に入団、ママアスリートとして


県リーグのチームを辞めてからはエンジョイで1年間、フットサルを楽しんでいたが、県リーグの元チームメイトから「セットスター和歌山で一緒にやろう」と誘われた。26歳の時だ。

セットスター和歌山は、男子トップチームが関西リーグに所属する和歌山県を代表するチームで、関西での知名度も高い。入団するか悩んだ。

しっかりした指導者の下でフットサルをやれば、また違った経験ができるかも知れない、そう思って飛び込んだ。セットスターで教わったフットサルの戦術や奥深さに、マインドまで変わっていった。

「以前は指導者の話を集中できずにぼんやり聞いていることがあった。でも阪下監督の言っていることを理解できれば、上手くなれる。そんな確信があってフットサルに夢中になっていきました」。仲間たちと公式戦で勝つ喜びを分かち合った。

プライベートでも大きな出来事があった。子宝に恵まれ、2017年1月に長女を出産した。子どもが生まれる前から、夫と「どうすれば競技を続けられるか」を何度も話し合った。セットスターレディースは月、木曜日が練習のため、木曜日は子守を夫にしてもらう調整をした。

「夫はサッカー指導者で、競技への理解があったことが大きかったですが、2人の中に『お互いやりたいことは調整してやる』という意識がありました。どちらかが犠牲になるというか、諦めてしまうのは避けたかったですね」

産後わずか3か月で、練習に復帰した。走れない、攻守の切り替えが遅い、体も頭もスピード感についていけなかった。「出産前と全然違う」と仲間に発破をかけられた。出産前のパフォーマンスに戻るのに1年かかったという。

試合当日の調整も苦労した。基本的には夫に子守を頼むが、できない場合は夫の両親にお願いする。それでも都合がつかない時は、試合会場に連れていき、怪我でベンチ外の選手に、あやしてもらったこともあった。

セットスター和歌山は2018年3月の関西リーグへの昇格をかけた「チャレンジリーグ」に駒を進めた。このリーグで2連勝して、昇格に王手をかけた。決定戦の相手はバディ(奈良)で先制点を許したが、3-2で逆転勝ちし、悲願を果たした。

「こんなにも絶対勝ちたいと思ったことはない試合でした。とにかく必死で走って、勝った時の喜びは、鮮明に覚えています」。日本女子フットサルリーグを制した「アルコ神戸」など強豪ひしめく関西リーグに、セットスターは再び名を連ねた。

大怪我で手術 それでも競技復帰へ


2年の出産・育児休暇を経て、仕事にも復帰。仕事、子育てと並行しながらフットサルにも真剣に向き合った。自身がキャプテンを務めた18年シーズンは関西リーグ7位(8チーム中)で終えた。

19年シーズンの7月にあった関西リーグ第3節のアルコイリス神戸戦で、アクシデントは起こった。

前半開始早々、ドリブル突破を仕掛けた相手を背負う形で守備に入った際、左足が内側に曲がって激痛が襲った。仲間に担がれて、ベンチに退いた。試合も4-1で敗れ、力の差を見せつけられた。

試合中に痛みが少し和らいだが、重傷を覚悟していた。診断は「前十字靭帯断裂」。早くて全治8か月。1か月後に手術し、2週間入院した。

怪我後、チームメイトからは「早く治してね」と声を掛けられた。当たり前のように自分の復帰を待ってくれている。手術の前に医師に「競技に復帰したいなら手術も変わります」と問われ、考える間もなく「復帰したい」と答えた。

「怪我をしても、フットサルをやりたくて仕方なかったんです。動けるようになったら、絶対恋しくなるんです」と当時の感情を振り返る。

入院中に子育てができなくなり、夫に迷惑をかけた。退院後は娘を抱っこできず、松葉杖では手をつないで一緒に歩けない。仕事も含め、日常生活への影響は大きかった。

19年シーズンは関西リーグで6位(8チーム中)となり、上位には食い込めなかった。

そしてチームは新シーズンに向け、「全国大会出場」を目標に練習の強度を上げていく。平さんは練習を眺めながら「今年こそは全国大会出場をみんなで勝ち取りたい。そして自分のプレーを見て『フットサルをやりたい』と思ってもらえる、存在でありたいですね」と笑顔を見せた。

仕事、家事、育児、フットサル・・・日々を過ごす上で計り知れない苦労があるのだろうが、それを感じさせない明るい表情で質問に答えてくれる。

取材を通してフットサルの楽しさが、ひしひしと伝わってくる。「なぜフットサルを続けるのか」、「平さんの人生にとってフットサルはどんなものなのか」。取材の最後、平さんに質問をぶつけてみた。

「もう生活の一部なのでしょうね。私の人生になくてはならないものです」

 (了)

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