~シュライカー大阪・齋藤日向選手~
シュライカー大阪の開幕戦に、22歳の若者がキャプテンマークを巻いて出場した。大阪のフィクソ・齋藤日向選手だ。
サッカーのセンターバック兼ボランチのようなポジションがフットサルのフィクソ。守備の要、攻撃の起点でもあり、ゲームをコントロールするなど役割の多いポジションでもある。
Fリーグディビジョン1に所属する大阪には、昨シーズンまでFリーグ史上最高のフィクソと呼び声が高いアルトゥール選手がいたが、名古屋オーシャンズへ移籍。大阪に所属する日本代表フィクソ・田村友貴選手はケガで開幕から欠場している。
フィクソは齊藤選手に加え、マティアス選手、ピヴォの相井選手が一時的に入る場面もある。齊藤選手は「アルトゥールや(田村)友貴さんの代わりではなく、自分のできることを100%やり切るだけです」と語る。
今シーズンのキャプテンは昨年に引き続いて田村選手が務め、2人いる副キャプテンにはベテランの今井選手に加え、齋藤選手が指名された。今シーズンから指揮する永井監督の期待が表れていた。
例年と比べて3か月以上遅れて開幕したFリーグ。9月6日、昨シーズン4位の大阪が初戦で対戦したのはエスポラーダ北海道(昨シーズン11位)。2点先取される苦しい展開だったが、2-2の引き分けに持ち込んだ。齋藤選手はセカンドセットとして長い時間プレーした。
齊藤選手は「セットプレーから自分のマークが甘くて相手に得点され、サイドでの1対1で相手の突破を許してしまった。2失点ともに絡んでしまい、反省する場面が多かった。1月以来の公式戦で緊張感があり、本来のプレーができなかった」と振り返る。
昨シーズンはチームの最年少で、試合での出場時間も少なった。その中で自分が活躍することを考え、アピールすることが大事だった。今シーズンは同世代の若手も増えた。副キャプテンとして、若手選手を行動で引っ張っていき、チーム全体のことや雰囲気にも目を配らないといけない。
2試合目はY.S.C.C.横浜(F2から昇格)で4-2で勝利。初戦のような硬さはなかったが、横浜のキックインからマークしていた相手選手に決められるなど、またも失点に絡む。試合後、喜ぶほかの選手とは対照的に、複雑な表情を見せていた。
「同じことを繰り返してしまった反省が表情に出ていたのかも知れません。失点した後の動きが悪くなるので、トレーニングから意識を変えて、ネガティブにならず、表情にも出ないように前を向いて戦う姿勢でプレーしていきたい」
永井監督は「世界のピヴォとマッチアップして、対応できる実力はまだまだ足りない。自分がエラーをして、目に動揺が出てしまうメンタリティーではダメ。とにかく成長して、チームの精神的支柱になってもらいたい」と期待をかける。
サッカーからフットサルへの転向
齋藤選手がフットサル界で注目されるきっかけになったのは、4年前の第3回全日本ユース(U-18)フットサル大会だった。帝京長岡高校(新潟県)のエースとして出場した。
サッカー部の主力組から外れたメンバーだったが、優勝し、個人としても得点を重ねてMVPを獲得した。フットサルをほとんど知らないまま、サッカーでフットサルU-18の頂点に立った。
「卒業後は関東の大学でサッカーをやることがほぼ決まっていました。決勝戦で対戦したフットボウズなど、フットサル専門チームの動き方やセットプレーを見て、フットサルの魅力や奥深さを感じました」
もっとフットサルを知りたいという気持ちが強くなり、高校卒業後はサッカーではなく、フットサルを選んだ。入団したのは現在プレーする大阪だ。入団1年目は戸惑いの連続だったという。
「フットサルの戦術を全く知らなかったため、覚えることがとにかく多かった。自分の動きたいように走ると、味方とかぶり、邪魔してしまう。これまでやってきたことが通用しなかった」
2018-19シーズンには、主にFリーグクラブの下部組織から派遣された若手メンバーで結成されたFリーグ選抜(F選抜)に参加した。Fリーグの試合に出たい気持ちが強く、迷うことはなかった。
「F選抜はU-20日本代表のメンバーも多く、最初はレベルの差を感じ、ベンチ外になることもあった。それでも夏を過ぎる頃には、Fリーグでの自分の実力がつかめ、全チームと対戦してスピード感などに慣れが出てきた」
F選抜は毎日2部練習を行い、多くの時間をフットサルにかけることができ、自身も成長を感じる1年だった。F選抜1期生は12チーム中8位でシーズンを終え、フットサルファンを驚かせた。そして1年の派遣を終え、大阪に戻った。
アルトゥール、田村両選手から学ぶ 目標はワールドカップ出場
大阪に戻ると、練習時間はF選抜より短くなったが、トレーニングの強度や質は高かった。そして何より、アルトゥール、田村両選手のプレーを再び間近で観察することができた。
「アルトゥールには練習で、細かいポジショニングを指摘してもらい、ピヴォにパスを送るタイミングはよく見ていました。友貴さんには1対1の守備の仕方や、チームをまとめるリーダーシップを学ばせてもらっています」
アルトゥール、田村両選手は、フィールドプレーヤー最後尾のフィクソであっても得点を奪うところに特長がある。昨シーズン、アルトゥール選手は23得点、田村選手は14得点を挙げた。齊藤選手は5得点にとどまっている。
「フィクソだから点が取れない、というのは言い訳。2人を見ていて自分に足りない違いは、チャンスを見極めて前線に走っていく状況判断にあると思っています。フットサルIQをもっと高めたい」
まだフットサルを始めて4年も満たずで、伸びしろは大きい。一方で、若さを生かして走り、攻撃にアクセントをつけていく。自分の強みにも目を向ける。
そして次戦はアルトゥールのいる名古屋オーシャンズ戦(9月22日、オーシャンアリーナ)を控える。名古屋は初戦でボアルース長野を6-2、2戦目で立川・府中アスレティックFCを7-0でそれぞれ下し、王者の貫禄をみせている。
「アルトゥールと公式戦で戦える機会は楽しみです。ペピータら名古屋の選手たちに、自分がどこまで通用するのか。これまで2試合の反省を生かして、チャレンジャー精神で臨みます」
齊藤選手の目標は、フットサル日本代表、ワールドカップへの出場だ。「サッカーからフットサルに転向する際に、必ず達成すると決めた目標です」。もがきながらも、日々成長を信じて突き進む。
◆さいとう・ひゅうが 1998年6月生まれ、新潟県出身。170センチ、68キロ。試合前のルーティンは左足からピッチに入る。コロナ自粛期間は映画をたくさん観た。最近はコーヒーに興味がある。
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