選手

これからも日本のフットサルに貢献したい

2007年にスタートしたFリーグ。
年々プレーレベルが上がるこのリーグを、牽引してきたのが外国から来た助っ人選手たち。
その一人が現在、ペスカドーラ町田で背番号10を背負うヴィニシウス選手。
来日10年目、2017年には日本国籍も取得している。
また、昨シーズンはFリーグで通算300ゴールを初めて達成し、その歴史に名を刻んだ。
10年の年月を日本で歩んできたヴィニシウス選手にはここまでの歩みを糧として、未来に託す夢がある。

日本と日本のフットサルに
たくさんの恩返しをするために


2021年9月に開幕したフットサルワールドカップ。コロナ禍が影響し、本来開催予定だった2020年から延期となったが、今年は世界の強豪と堂々と渡り合う日本代表の勇士を観ることができた。その戦いぶりは、レベルの高い各国代表チームに引けを取らないもの。ここに辿り着くことができたその影には、Fリーグがあり、世界レベルのプレーで日本のフットサルのレベルを上げてくれた外国籍選手たちの存在がある。ペスカドーラ町田で10番を背負う、クレパウジ ヴィニシウス選手もその一人。日本で10年を過ごし、現在は日本国籍を取得、インタビューには通訳なしで応じる。

ヴィニシウス選手がブラジルのフットサルリーグでプロデビューしたのは18歳のとき。ずっと国内でプレーしていたが、2009年に神戸で開催された「フットサル神戸フェスタ」に当時在籍していたチームA.A.B.B(ASSOCIACAO ATLETICA BANCO do BRASIL)が招待されて来日。このとき初めて日本と日本のフットサルに触れた。その後、スペインのクラブに移籍したが、金銭的なトラブルから1年でブラジルに帰国。そのタイミングでFリーグのシュライカー大阪からオファーが届いた。

ヴィニシウス「スペインでプレーしたことは選手としてすごくいい経験だったけど、契約のトラブルがあって生活できなくなってしまった。ブラジルでやりたい気持ちもあったけど、安定した生活がしたかったし、その頃先に日本に来ていたイゴール(ピレス イゴール選手:ペスカドーラ町田)が日本はいいところだし、試合のスケジュールもちゃんと決まっているし、契約のトラブルもないというのと、2009年に日本に来たときに見た国の様子やアリーナの環境を思い出して、日本に行くのはいいことなんじゃないかなと思って決断しました」

イゴール選手が日本のいいところを挙げた言葉の一つにスケジュールの話が入っていたのは、ブラジルのリーグ事情とヴィニシウス選手の性格を理解してのこと。ブラジルのフットサルリーグは試合日程が直前に変わることがあり、試合に向けて準備をきちんと行いたいヴィニシウス選手にとってストレスの原因となっていた。より良い環境を望むヴィニシウス選手の気持ちを理解した、後押しの言葉だった。

ヴィニシウス「僕一人ではもっと難しかったかもしれないけど、イゴールのサポートも大阪のチームメイトのサポートもあった。ブラジルはいいところだけど、みんなも知っている通り治安に問題がある。日本は言葉の問題など難しいことはあったけど、どこでも安全だから住みやすい。大阪では、すごくいい生活ができたと思う」

7シーズンを大阪で過ごし、2018シーズンからは町田へ移籍。住環境が変わった。

ヴィニシウス「大阪で住んでいたのは住之江というところ。大阪駅に近くて、難波に行きやすいし、梅田に行きやすいし、USJもあったし、すごく楽しかった。でも、僕と奥さん、大人のことだけを考えたらすごく楽しかったけど、子どもが遊ぶところとかはあまりなかった。町田は、子どもたちの学校が近いし、公園もある。僕が住んでいるところはすごく静か。日本で住んだ2つの場所は全然違うけど、両方ともすごく気に入っています」

Fリーグで実績を上げることで日本に馴染み、来日6年目には日本国籍を取得している。

ヴィニシウス「あのときが2017年。みんなそれまで僕に優しくしてくれて、この国やフットサルに何かを返したい気持ちが生まれた。僕はブラジルで結婚したんですけど、僕の家族は日本で始まった。娘は今年6歳。その6年はずっと日本にいて、もらったものがたくさんある。だから、何かを返したい気持ち。もう一つは、日本のルールは外国人に厳しい。会社を作りたいと思ったら日本人の方がやりやすい。日本国籍を取れば、フットサルに何かを返すのもやりやすくなるんじゃないかなと考えた。メインの理由はこの2つ。もう一つは、代表も良いんじゃないかなと思った(笑)」

今回のW杯は逃したけれど、日本代表でプレーすることも目標の一つ。

ヴィニシウス「(代表の招集は)まだ来てないけど、大事です。町田としては、毛利(元亮)選手とイゴール選手の二人が呼ばれたのはうれしい。もちろん僕も行きたいけど、ブルーノ(・ガルシア監督)の仕事はリスペクトしているし、監督が自分の好きなスタイルとか、好きな選手を呼ぶのは当然。僕がいつも言っているのは、町田で一生懸命頑張って、チャンスがあったらいいプレーができるように準備している。どこかのタイミングで呼ばれたら、全力で頑張ります」

この先の未来で夢を叶えるために。日本国籍を取得したことで、できることがさらに広がったと感じている。

ヴィニシウス「10年はすごく早かったし、今もすごく楽しい。やりたいことがまだまだいっぱいあります」

Fリーグ史上初の300得点を達成!
歴史に名を刻んだことが誇り


日本での生活に慣れるのも大変だったが、それ以上に驚いたのが本業のフットサルだった。それは、ブラジルやスペインで経験したことのない日本スタイル。

ヴィニシウス「みんなパスを出してたくさん走る、パスを出してたくさん走る。速すぎると思った。最初の印象は、『この中でどうやってプレーするの?』。僕はたくさん動く選手じゃないから最初に考えたのが、『どうなるかな?』ということ」

高い技術力と緩急を操るブラジルのスタイルを体現するヴィニシウス選手にとって日本のフットサルは、ただただ「速い」ものだった。それでもポジティブな思考力で乗り越えようとするのがヴィニシウス選手のいいところでもある。日本のスタイルの中で自分を活かすことを考えた。

ヴィニシウス「日本人と同じプレーや同じスタイルならブラジル人は必要ないし、僕はスピードでは負けるかもしれない。それよりもブラジルやスペインで得た経験から、この速い選手たち中でどうやってドリブルをしようとか、この速いフットサルの中でどうやってゴールを決めようとか」

ヴィニシウス選手が大切にしているのは、「考えてプレーすること」。どんな状況でも、その状況を分析して自分を活かす道を探す。しかもこのときチームから求められていたのは、たくさんのゴールだった。

ヴィニシウス「あの頃の大阪は、少し決定力が低かった。求められたのはゴール。監督は、ゴールを決めたら走らなくても大丈夫です(笑)。ゴールを決めるために日本に来ました」

『どうやってプレーする?』と自らに問いつつ、ピヴォやアラといった攻撃的なポジションを担い、来日した最初の2011-2012シーズンから27得点を決めて、得点ランキング2位を獲得。その後のシーズンも常にベスト3には名を連ね、2015-2016シーズンには48得点を挙げて得点ランキング1位に輝いた。この記録は現在、Fリーグ史上、シーズン最多得点となっている。
こうしたシーズンを積み重ねてとうとう昨シーズンは、Fリーグで初めて通算得点300点を達成した選手となった。

ヴィニシウス「僕がフットサルをやっている理由の一つは、歴史を作りたい。50年後に僕はいないかもしれないけど、50年後に『Fリーグで初めて300点を取った選手は誰ですか?』と聞かれたら僕の名前がある、その歴史を作った。そのためにも毎日朝起きて、練習を頑張っている。僕の名前をみんなに覚えてもらうために。これまでFリーグで歴史を作ってきたのは、名古屋オーシャンズ。でも1回だけ大阪が優勝したことがあった。そのとき、大阪に僕がいた。それも歴史を作ること。去年、300ゴールを達成したときに、そういう歴史を作れたかなと感じた」

Fリーグが創設されて10年以上が経ち、さまざまな記録が生まれ、歴史として記されている。その一つにヴィニシウス選手も名を刻んだ。

ヴィニシウス「歴史に名を残すことは、ただ勝って負けてより、もっと大きなモチベーションになる。僕は今、34歳だけど、6歳とか7歳の頃に憧れた選手のことを覚えているね。今のファン、町田を応援しているとか、Fリーグの応援をしている子どもたちが、10年15年経って『憧れた選手は誰ですか?』と聞かれて『ヴィニシウス選手です』と答えたら、僕の名前やチームの名前がそういう歴史を作ることができたら、それが一番うれしいなと思います。何年経っても、Fリーグで初めて300点を取ったのはヴィニシウス選手。だからすごくうれしいです」

しかも昨シーズンに積んだ得点は、これまでとは違った意味を持っている。町田で指揮を執るルイス ベルナット モリーナ監督の采配によって、守備的なポジションであるフィクソを託され、そのタスクを担いながら決めたゴールだからだ。もちろんこのコンバートは、得点を取ることに専念すれば良いポジションにいたヴィニシウス選手にとって、青天の霹靂ともいえる出来事だった。

ヴィニシウス「それがチームのためにも自分のためにもなると。でも聞いた時は『え?』となった。元々攻撃の選手だし、今も攻撃の選手だけどね(笑)。それから、フィクソの役割をやって得点が取れるのか?と考えた。でも、頑張ったらできるんじゃないかなとも思った。新しいチャレンジをするところを若手に見せるのも大事だし。それでスペインのフィクソを見て、ブラジルのフィクソを見て、日本のフィクソのプレーを見て、『やりましょう』と監督に言った。プレースタイルを変えるのは、誰でもできるわけじゃない。分析をして、適応することができるのは、自分の特徴だから。そうやってフィクソにチャレンジして、得点王も取れた。楽しいシーズンだった」

モリーナ監督は、クラブが大切にしている育成に関する考え方を理解し、下部組織からトップチームへ昇格する若い選手が大きく育つようなチーム作りをしている。そのためには、経験豊富なヴィニシウス選手の協力が必要だった。

ヴィニシウス「フィクソをやることは、僕のキャリアにとって0からリスタートするようだった。そのモチベーションを持って、フィクソでも大きなことができるんじゃないかと思ってチャレンジした。300点のうち、90%は攻撃の選手としてとったゴール。そういう意味で去年の23点は、他のシーズンの得点と比べても大事にしています」

これから目指すのは、400得点。しかもポジションは今シーズンも変わらずフィクソを担っている。

ヴィニシウス「2年目のフィクソは、攻撃をやっているときと一緒で、これから難しくなると思う。他のチームのピヴォが、ヴィニシウスのフィクソを分析するから。楽しいけど、1年目の昨シーズンよりもっと頑張らないといけないし、その緊張感を持っていたい。自分は全部できてると思ったらそこで終わり、そこで負けてしまうと思うので、これから去年より頑張りたい」

昨シーズン、ヴィニシウス選手がフィクソのポジションでプレーしたことは、他チームの選手も驚かせた。しかし2年目の今シーズンは、誰も驚かない。プレーのデータも揃い、研究も進む。いかにヴィニシウス選手を欺くか、各チームの攻撃陣も知恵を絞って挑んでくる。ヴィニシウス選手も彼らを上回り、さらに今シーズンも最終ラインからゴールを狙う。昨シーズン以上に工夫した攻撃シーンが見られることが期待できる。

選手一人ひとりが責任を持って
目指すは昨年より上位の成績


今年は、モリーナ監督を迎えて3年目のシーズン、一つの節目を迎えるタイミングといえる。チームとして掲げる目標は「昨年以上の成績」。昨シーズンは、リーグ3位で終えた。

ヴィニシウス「優勝までいくのか、準優勝か。また3位だったら目標は達成してないと思います。ベルナットが来てから世代交代をして、プレースタイルにも変化があった。成長のプロセスを辿っているけど、いきなり全部変えるのは難しい。下部組織から上がった選手のメンタルもそう、Fリーグにどれくらい早く慣れるかも、1年目と2年目を比べたら徐々に上がってきているけど、すぐには難しい。だからまずは、去年より上に行こうという目標があります」

昨年も若い選手が目立つチームだったが、今シーズンもまたU-18やアスピランチから昇格した選手が多い。しかも彼らの多くは開幕戦からメンバー入りし、ピッチにも立った。

ヴィニシウス「大阪にいた頃、Fリーグのクラブで下部組織が強いのは、名古屋以外知らなかったけど、町田に来て、町田はブラジルみたいな考え方で下部組織を作っていて、強いことを知った。それはチームの一つのメリット。もちろんU-18もアスピランチも準備ができてる選手ばかりじゃないし、まだたくさん学ばないといけない。メンタルもそうだし、フットサルを理解することもそう。でも、ポテンシャルは、たくさんあります」

東京五輪とフットサルW杯のためにリーグ戦は7節までを終えて中断。町田は、バルドラール浦安戦が延期になったため消化数が1試合少ないが、3勝1分2敗で6位につけている。ヴィニシウス選手はこの結果を厳しく評価している。

ヴィニシウス「足りない。本当に優勝か準優勝したい。この1分と2敗、1分は大分のホームだから大丈夫と思うけど、2敗は大阪と北海道にホームで負けた。ホームでの負けは絶対にダメ。このチームはそういうところで強くならないといけない。どの試合も決勝のつもりで戦わないと優勝や準優勝まではいけないと思います」

昨シーズンからのコロナ禍の影響もあって2020-2021シーズン終了後のオフは短く、十分とはいえない時間しか取れないままリーグ戦が開幕した。そういう意味では、一度実践で試す期間を経て巡ってきた長い中断期間は、チームを再構築するのにうってつけだ。

ヴィニシウス「彼らに伝えたいのは、戦術を真似するだけじゃない、もっとフットサルを理解してプレーすること。ルイス ベルナットの3年目、結構成長していると思うけど、このグループで優勝したいとか、優勝したらアジア選手権があるとか、全日本選手権があるとか、そういうことを考えると、若い選手たちがどこかのタイミングでもっと早く成長しないといけない」

足りない何かを補うためにヴィニシウス選手が実践しているのは、まず自分の経験を伝えること。

ヴィニシウス「もう1回プレシーズンみたいなことをやっている。例えば去年は、僕と室田(祐希)選手(現エスポラーダ北海道)がたくさん点を取ったけど、今、室田選手はいない。室田選手が決めたゴールを誰が代わるのか。そういう役割を誰かがやらないといけない。『ヴィニシウスに任せる』とか、『ヴィニシウス中心で』じゃなくて、『代表に選ばれた毛利選手が30点取ってね』じゃなくて。室田選手の20点を4人の選手が5点ずつ決めたらカバーできる。もっと一人ひとり責任を持って、チーム全員で得点を決めたら優勝とか準優勝ができると思います」

リーグの再開は10月の2週目の週末から。W杯で世界と戦った代表選手がチームに戻り、その経験も還元される。昨年以上の成績を目指す戦いが再び始まる。

観察・予測・考えて判断する
それが僕のプレースタイル


現在、U-18の監督として指導も行っている。実はブラジルにいた頃、日本でいうところの体育大学で勉強し、教師と指導者の資格を取得している。

ヴィニシウス「リカルジーニョ選手(元名古屋オーシャンズ)や室田選手は一人でプレーできるけど僕はできない、周りの選手が大事。どうやって周りの選手を使うかは、フットサルをもっと理解しないといけない、もっと勉強しないといけないと思ったから、選手をしながらそういう勉強をした。そういう勉強をすると、指導者になるんじゃない?」

まずは自分がプロとしてより良いプレーをするためにフットサルを理論から学んだ。指導者を目指す目標は、後からついてきたというところ。

ヴィニシウス「まだ戦う気持ちがたくさんあるから、あと何年かは選手としてプレーしたいし、スクールやU-18の指導だけではうまく行かないと思うけど、そういう道はあるかもしれない」

ヴィニシウス選手は、フットサルをするうえで「考える」大切さ何度も話していた。例えば日本の「速い」フットサルに適応し、何度も得点王に輝いたのも「考えた」からこそ。

ヴィニシウス「僕がいつ理解したかは覚えてないけど、ブラジルでは、普通の子どもでもわかっていると思う。僕はいつもプレー中に僕のセット、誰と一緒に出ているか、相手チームに誰がいるか、自分のチームのスタイルと相手のスタイルを観察している。例えば僕にマンツーマンでついている選手の特徴、ウイークポイント、それを全部分析して判断する。ただ頑張って走るんだったら、日本人に負けるから違う道を作らないといけない。相手の方が足は速いけど、一歩前でトラップできるようにするとか、1秒早く動くとか、良いタイミングで入るとか、駆け引きをしてシュートするとか。そういうことがうまく行ったから300得点取れたと思う」

ヴィニシウス選手はあらゆるものを観察して分析する。それは、試合中だけに行うものではなく、キックオフの笛が吹かれるそのずっと前から積み重ねている。

ヴィニシウス「試合前にアリーナに着いたら、僕はすぐにピッチに行きます。コートのサイズは20m×40mで変わりはないけど、例えばここは後ろに壁がある、ない、キックインのリスタートが早くできる、できない、そういうところを見ています。ベンチにいるときもただ休んでいるだけじゃなくて、試合を見て、今、相手はこの戦術をやっている、じゃあ僕たちはこの戦術をやってもうまくいかない、違うことをやりましょうとか。日本はスケジュールがきちんと決まっているから来週の相手がわかるし、1週間準備ができる。1年目2年目とチームメイトに慣れて、Fリーグに慣れて、相手チームのスタイル、例えばエスポラーダ北海道はカウンターがうまくて、ドリブルを持っている選手が多いとか。そういうことに慣れて、どんどんできるようになったと思う」

こうして経験してきたことを伝えることが今の役割の一つだと考えている。

ヴィニシウス「フットサルは、本当にすごく考えてプレーしたら速い選手とか、体が強い選手とかばかりじゃなくて、誰でもプレーできる。フットサルを知って、ちゃんと頭を使ってプレーをする。日本に来てよく見たのは、監督が『これをやって』『これをやって』『これをやって』と指示を出すところ。僕もU-18の選手に話しますけど、僕が話すのは『これを見て』『これを見て』『これを見て』。つまり、この状況がある、この状況について何をしたらいいのか、どこに行ったらいいのか考えるという教え方をします。フットサルの戦術の中で決まっている動きもあるけど、例えば、相手のディフェンスについて、今日は何をするかはわからないもの。スカウティングでは中を切ってくる、だから僕が縦に行く、そうしたら戦術は変わるかもしれない。試合が始まったら相手は中じゃなくて縦を消してきた。自分たちで状況を観察して、変える力がなかったそこで試合は終わり。僕の教え方は、状況を見て、予測して、ボールをもらう前に考えて、そこから判断。これは僕のプレースタイルでもあると思う。多分、僕は自分のプレースタイルを伝えていると思います」

この全てを選手一人ひとりが意識して実践することが大切だと考えている。

ヴィニシウス「チームの戦術の前に、個人の戦術がある。フェイクするとか、足の裏でボールをそのまま動かすとか、ワンツーのやり方、どのタイミングで裏に走るかとか、ダイレクトパスとか。どのチーム戦術を使うにしても、個人戦術を最初に教えないといけない。例えばクアトロの戦術、最後は裏にボールを蹴る。最後にボールを蹴る人は、その戦術を持ってなかったら、そのパスが裏まで届かない。だからフットサルの3-1とかクアトロとかを教える前に個人戦術を教える。ポジションごとの役割もそう、フィクソはサポートしないといけないし、いいパスを持ってないといけない。アラは前を見ること、仕掛けること、自分にマークを引きつけること。ピヴォはシュートとキープとかね。フットサル全体で使うもの、ポジションごとに使うもの、そういうことをU-18の選手やアスピランチの選手が理解したら、トップに上がったときにどの戦術でもできる、どのプレースタイルでもできると思います」

トップチームで共に戦う20歳前後の若手たちには、さらに多くのことを伝えている。

ヴィニシウス「今の日本では、フットサルの選手のすべてがプロになれるわけではない。僕がいつもチームの若手に話しているのは、なんのためにフットサルをやっているのかということ。お金だけのためだったら、多分うまくいかない。まず僕がフットサルをやっているのは、5歳からお父さんとフットサルをやっていて、フットサルが本当に好きだったし、頑張った。それでプロになるオファーが来たし、お金もついてきた」

Fリーグは、プロ契約の選手と仕事をしながらプレーする選手が混在する。ヴィニシウス選手自身は、プロ契約だが、チームメイト全員がそうではない。だからこそ、余計に純粋にフットサルができるよろこびを感じてほしいと願っている。その反面、プロ化への道を開くのも自分たちの姿勢にかかっているという思いもある。

ヴィニシウス「若手と話をして『なんのためにフットサルをやっているの?』と聞くと『夢』という。夢だったら、お金は関係ない。彼らは、もっと頑張るという。同時に、『でも、プロじゃない」という言葉も聞こえる。でも、プロの姿勢を見せないとプロにはなれないと思う」

昨シーズンの終わりに開催された全日本選手権で、町田は準決勝でフウガドールすみだに敗れた。その試合後の会見でヴィニシウス選手は、フットサルに携わる若い選手たちの環境をもっと良くしたいと訴えた。

ヴィニシウス「あのときは、今の若いチームで全日本選手権の決勝まで行って、なんで勝てなかったのかを考えていた。もうちょっとだけいい環境だったら彼らはもっと成長しているんじゃないかな。もっといい環境を作らないといけない。
僕はプロとして契約しているから朝練習をして午後は家で休むこともできるし、筋トレをしたければジムに行けばいい。U-18の監督をしているから、疲れていても指導をしなくちゃいけないときはあるけど、それは大きな負担じゃない。でも日本人の若手の何人かは、仕事をしなくちゃいけない、バイトに行かなくちゃいけない。何人かはチームのスポンサーのところで働いている。それはすごくありがたいし、感謝もしている。でももし、もっと練習の時間を増やしたり、体を休めて次の日の練習に備えることができたら、彼らはもっと早く成長するんじゃないかなと思う。もっと活躍できると思うし、フットサル全体のレベルも上がると思う。生活のレベルでもっといい環境を作れたら、もっと結果がついてくると思いました」

今、フットサルに携わる選手たちの環境は、恵まれているとは言い難い。だからこそヴィニシウス選手は、機会があればその状況を率直に語り、環境の向上を訴える。日本のフットサルのレベルアップと選手たちの夢をかなえるために。それこそが自分の使命であり、ヴィニシウス選手の行動の原動力となっている。

▶Text by 小西 尚美
▶Photo by ペスカドーラ町田
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