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ボルクバレット北九州物語「出会い」

~ボルクバレット北九州監督・馬場源徳さん(前編)~

歴史にも個人の人生にも言えるのだが、ほんの小さな偶然とも言える出来事が、時間が経過した後の事実に大きな影響を及ぼすという話はよくある。今回ボルクバレット北九州監督の馬場源徳さんの話を聞く機会を得て、私は改めてそう実感することとなった。海外での実績もある馬場さんが何故スペインから日本に戻り、ボルクバレット北九州の監督就任に至ったのか。素朴な疑問に迫ると、そこにはまるで昭和のスポコンドラマのようなストーリーが待っていた。(スポコン=スポーツ、根性の略)

始まりは一通のメッセージ


馬場
「今でもはっきり覚えてますよ。Facebookのメッセージが来たんです。北九州の小原と申します、と」

小原さんとは、ボルク北九州代表(当時)の小原崇(※)さんのことだ。小原さんにもその時のことを一緒に振り返ってもらった。

(※)小原さんの記事▶https://bit.ly/3dopUI9

小原「あの頃サッカー界で、今リヴァプール監督のクロップがドイツでトラジショントレーニングのコンセプトとかを徐々に表に出していってました。それをフットサルにもと考えたんだけど全然意味分からなくて(笑)
それでずっと調べてたらちょうど源ちゃん(馬場源徳)が確か佐賀でクリニックやってる動画が出てきました。そのほんの2,3分のちょっとした動画で、是非この人の話を聞いてみたいと思ってFacebookで探してメッセージを送ったんです。次回日本に帰って来られる機会がございましたら、ご教授願えませんか、みたいな感じだったと思います」

小原さんからのメッセージは馬場さんの目に留まった。

馬場「丁寧でしたし、すごく熱かったです。普通Facebook経由の人ってみんなお願いしてくるんですよ。スペイン行きたいんですけどどうにかなりませんか、とか。いや、ちょっと待ってって。でも小原さんのメッセージは本当にすごく真面目に書かれていて、僕も丁寧に返しました。普通の方と違ったし、何というか、仁義というかマナーがあるというか」

このメッセージのやりとりがきっかけで、馬場さんは小原さんに会うため北九州にやって来ることになる。初対面の場所は折尾駅東口(北九州市八幡西区)だった。

小原「ちょっと飯食いに行きましょうと。そして源ちゃんが作戦ボード持って車から降りてきて。店に入って席について僕にいきなり『あなたの信じるフットサルを語って下さい』ですよ」

馬場「そう。それがちゃんぽん屋ですよ。すごい話でしょ」(大爆笑)

長崎市出身の馬場さんにとって、ちゃんぽんといえば故郷のソウルフード。北九州に到着し、最初に案内された店がちゃんぽん屋という時点で胸に熱く迫るものがあったという。

最初はボルク北九州ジュニアの指導から



大いに語り合い意気投合した二人だが、まず馬場監督はボルク北九州のジュニアチームを指導することになる。そこで馬場さんが行ったのは、小原さんが今まで見た事のない指導方法だった。

小原「セットプレーの時に衝撃を受けました。コーナーキックの練習なんですけど、今まで僕が見て来た練習と全く違った方法をやりだしたんですよ。普通のコーナーキックだと人を並べて、形を練習するんですけど、そうじゃなくて相手との駆け引きをまずやらせて」

馬場「はい。ひとりひとり最少人数から始めたんですよね。1対1から。わ―、懐かしい(笑)
そういう練習をやって、まず『フットサル勘』を一緒に表現していくんです。守備の時、まず言ったのはみんなに足りないのは意欲と態度だと。守備は意欲と態度です」

馬場さんが指導した1ヶ月半ほどの期間で、ジュニアの選手達の成長は目を見張るものがあった。

馬場「元々素材が良かったですし、小原さんに鍛えられていてベースがあった。あらゆることに耐えうる力があったし、泣きながら当たり前に練習するような子達だった。下地が強かった。だからこそ僕の指導が合ったんだと思います。激しくコーチングとか、プレスとか」

ジュニアの中で出た成果と、短い期間ながら得たボルク北九州との共感により、次に馬場監督はトップチームの指導にもかかわる。最初は月に1~2回の指導だったが、選手達から「自分達でお金出し合うから毎週来て欲しい」と声が上がり、更にはもっと来て欲しいからと馬場さんの講習会などの企画も始めたという。

馬場「しかも結構人数集まってたんですよね。30人とか。それで夜中の1時くらいまでやるわけです。鹿児島や佐賀など遠方から来てる人達が『やべえ、どうする?もう帰れない…』みたいになって。もうここ泊まってっていいよって小原さんが言って下さったり。そういうクレイジーな環境を提供して頂いて。それをやらせてくれたのはここだけです。本当に狂った内容です、今考えたら。その経験があったから、僕もここだったらやれると思いました」

小原「源ちゃんにやってもらうじゃないですか、最初は選手もただキツイだけで。でもやってるうちに変わっていく自分達を実感できるようになったんじゃないかな」

そもそも、当時ボルク北九州監督だった小原さんと馬場さんの、お互い目指しているものは近かったのだろうか。

小原「いや、目指してるものからしたら、僕らは日本で、全然フットサルっていう文化がない中で自分達なりにやってただけ。それがスペインで色んな経験とか積みながら頑張ってた源ちゃんと同じかどうかは別。ただ、狂ったように一緒にフットサルやってたっていうね」

馬場「そう。なんだろ、目標がもしかしたら全く一緒じゃなかったとしても、志っていうか、気は合うと思います。本当に狂ったように練習やって、フットサルやって。スピリットですね。例えば夜中の2時迄練習やってても止めない人と、止めれない自分が一緒にいれるっていうのが(笑)
これってすごく難しい事で。もちろんそれが進んでいって、お互いの目標とか現実が違っても行き先が同じということはあると思います」

時には早朝から夜中まで。雨の日も雪の日も。今のご時世ではなかなかあり得ない、昭和のドラマのような日々を過ごした馬場さんとボルク北九州のメンバー達。
こうして馬場さんが北九州にやって来た2015年の時間は濃くも疾風のごとく過ぎていき、2年目に馬場さんはボルク北九州の監督に就任。フットサルを仕事として、北九州に生活の拠点を移す事を決意する。

馬場「一緒に楽しんでました。だからここに2年目も来たい、3年目も続けたいって思ったし。本当にそこは小原さんありきですね」

馬場さんが正式にボルク北九州監督に就くと同時に、それまで代表兼監督だった小原さんは代表に専念。
ボルク北九州は次のステップへと進んでいった。

(つづく)

ボルクバレット北九州物語

Text by 東 恭子
Photo by 東 恭子
Illustration by style.t.84
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