コラム

「サッカーのちっちゃい版」が秘める可能性

~わたしと彼の、そしてフットサルとの出会い2013~

一見細身の身体にこなれたストリートファッションを纏い、ニコニコよく笑うノリの良い爽やかな青年だった。
2013年2月、その人は共通の知人との食事会に現れた。
所謂“合コン”なんていうワクワクしそうな響きの類ではなく、サッカー好きの老若男女が10人程集まったフランクな食事会だ。
「フットサル選手をしている」
彼は何気ない会話の中でそう自称した。
それがわたしと彼の、そしてフットサルとの出会いだった。

いや、よく思い返してみると、フットサル自体にはもっと早い段階で出会っている。
複数の友人で集まって、狭いコートでただボールを蹴るだけのフットサル“らしきもの”だ。
正式なルールなんてものはない。
コスプレをしてプレーをすれば得点アップだとか、シュートは必ず女性にさせるだとか、その時の参加者や場の雰囲気で適当に変わるローカルルールの下で行うボール遊び。
これがわたしにとってのフットサルだった。
そのせいか、わたしはフットサルというスポーツに対して“楽しい”という感想は持っていたものの、“真剣にやるもの”という実感はなく、それを生業にする人たちに対するイメージも希薄だった。
そしてあろうことかわたしはフットサル選手に、「本当はサッカー選手になりたかったけどなれなかった人たちがやっているのだろう」という偏見さえ持っていた。
サッカーのちっちゃい版
まさしくこうだった。
だからこそ、なぜ彼がフットサル選手になったのか、そして彼が仕事としてやっているフットサルは、わたしの知るフットサルとどう違うのだろうかという興味がとても湧いた。

“サッカーのちっちゃい版”なんてとんでもなかった


その年の5月、そんなわたしに転機が訪れる。
フットサル日本代表とアルゼンチン代表の国際親善試合が行われたのだ。
彼との出会いからフットサルについて学ぶ機会が格段に増え、ルールや有名選手などの情報も頭に入ってはいた。
しかし、実際に競技としてのフットサルを観たことはなく、このチャンスを逃すまいとすぐにチケットを手に入れた。

代々木体育館に続々と集まる人々の波に流される形で空いている席に座ると、どこからともなく聞き慣れた太鼓の音がこだまする。
そう、サポーターの応援だ。
彼らが発する選手名は新鮮なものであったが、わたしもよく知るリズムとメロディが自然と気持ちを高揚させた。

歓声を縫って鳴り響く小気味良いシューズの音。
絶え間なく交わされるコーチングの声。
まるで格闘技のように強烈な破裂音はシュート時に放たれたものだ。
普段観ているサッカーでは体験したことのない様々な音がわたしの耳をダイレクトに刺激した。
そして、追い付けないくらいに素早いプレースピードがわたしの目を支配する。
瞬き一つ許されないほど目まぐるしく展開が変わるのだ。
そうかと思えば、ボール捌きはまるでダンスをしているかのような軽やかさで。
わたしはそのステップを食い入るように見ていた。
「なんだこれは!」
それはわたしの知っているフットサルではなかった。
“サッカーのちっちゃい版”なんてとんでもなかった。
わたしはこの1試合で、寝ても覚めてもフットサルに取り憑かれたような日々を送ることとなった。

6月にはFリーグの開幕戦を観に行き、朝から晩まで5試合を観戦した。
7月にはサッカーの試合で大分に行ったついでにバサジィ大分の練習を見学したし、一人で名古屋オーシャンズの練習も見に行った。

2日間にわたり名古屋で開催されたカップ戦も全試合(12試合)観た。
それからもとにかく暇を見つけては会場に足を運び、その年は結局30試合以上観戦したと思う。
とにかく見る度に新しい発見と刺激のあるフットサルが、観たくて観たくて仕方がなかった。

こんなに楽しくてワクワクするスポーツをもっとたくさんの人に知って欲しい。
自分でこっそり楽しむだけでは物足りなくなったわたしは、今度は周りを巻き込めないものかと企み出した。
目をつけたのは、わたしと同じ境遇の「フットサルを観たことがないサッカーファン」。
とあるサッカーメディアに直談判をし、スポンサー企業に協力をしてもらって初心者観戦会を開催した。

「Jリーグのサポーター」ということだけが共通点の30人。
小学生の男の子や、ご夫婦で参加してくれた方もいた。
彼らに存分に楽しんでもらう為に、徹夜で作った直筆の資料も配布した。

サッカーが好きな人たちだからこそ、フットサルがただの“サッカーのちっちゃい版”ではないことが分かってもらえるだろうと確信していた。
もちろんルーツとしては同じスポーツであり(※諸説あり)、FIFAの管轄にある以上サッカーの一種として捉えることも間違いではないかもしれない。
しかし、実際にフットサルの試合を観戦した時に感じる衝撃や違和感は、確実にフットサルがサッカーとは違うオリジナルの文化を作り上げてきたことを意味している。

フットサルを観る文化へ


今や日本にもサッカーを観る文化がすっかり根付いた。
全国にJリーグのチームがあり、日本代表の試合ともなれば多くの人がスタジアムやTVで観戦する。
しかし、実際に自分がプレーをすることに関しては、サッカーはややハードルが高い。
人数も多く集めなければいけないし、広いサッカー場を借りることは簡単ではない。
雨が降ればやる気は削がれるし、夏の炎天下なんてもっての外だ。
一方でフットサルの場合、都会のビルのテナントにフットサル場が作られたり、ショッピングモールに併設されたり、身近にプレーができる場所が格段に増えた。
屋内であれば雨の心配はいらないし、サッカー経験のない女性や、しばらくボールを蹴っていない運動不足の年配の人でも気軽に参加できる。
それにも関わらず、観るスポーツとしてのフットサルはイマイチ知名度も人気も上がらない。
フットサルをやったことがある人の数はどんどん増えているのに、自分たちがプレーをするハードルが下がれば下がるほど、「フットサルは観るものではなくするもの」という意識になりがちだ。
誰でも気軽にプレーできるというのが間違いなくフットサルの魅力ではあるのだが、だからこそそれを本気で突き詰めたプロの人たちのプレーを一度生で観てみて欲しい。
自分たちが普段やっているフットサルとはまた別の次元の“本気のフットサル”に気付くことができるだろう。
そうして気付いたことを今度は自分のプレーで活かして、“観る”フットサルと“する”フットサルの魅力を相互で高め合えたら理想だ。
ネイマールをはじめとする数多くのサッカー選手がフットサルを経験したのちにサッカーをしている。
フットサルがただの“サッカーのちっちゃい版”ではないことに、世間が気付き始める日もそう遠くないかもしれない。

完全に余談ではあるが、冒頭のフットサルをしている青年のことを当時わたしは好きだった。
しかし、パワープレーを仕掛ける余裕もなくあえなく試合終了のブザーが鳴った。

Text and Photo by 峰 麻美
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