クラブ

Fリーグに挑戦する埋もれた才能に門戸を開くFリーグ参入へ

~ポルセイド浜田・山本尚希監督~

2019年3月、兵庫県西宮市から夜行バスなどを乗り継いで、約300㌔離れた島根県浜田市に1人の男が降り立った。現在、フットサルのFリーグ・ディビジョン2(F2)に所属する「ポルセイド浜田」の山本尚希監督(37)だ。

山本監督はこう回想する。

「街の中心地・JR浜田駅前でバスを降りると、早朝ということもありましたが、人が誰もいませんでした(笑)。想像はしてはいましたが、西宮と比較できないぐらいの静けさでした」

山本監督は16年までの1年半、Fリーグクラブ「デウソン神戸」(本拠地・神戸市)で監督を務めた経験がある。その後は、デウソン神戸の運営スタッフやフットサルスクールの指導者という裏方に転じていた。

18年12月にF2に参戦するポルセイド浜田の三井茂代表から監督就任を打診された。翌年3月にフットサルの環境などを確かめるため、浜田市に足を運び、3月末には契約が決まった。

「裏方に転じてからも地域リーグチームの監督などのオファーはいくつかありましたが、Fリーグの監督を再びやりたい気持ちが強かった。独身で自分自身は大丈夫でしたが、当時父親が闘病中で生活の拠点を動かすことへの迷いはありましたね

山本監督が就任する前のポルセイド浜田は18ー19年シーズン、0勝1分13負と、F2の8位(最下位)に沈んだ。7位との勝ち点差は11もあり、苦しいシーズンを過ごした。

監督就任から19ー20年シーズン開幕まで2か月半しかなかった。開幕戦はアグレミーナ浜松に0-3、2節はY.S.C.C.横浜に1-10、3節はトルエーラ柏に1-9と連敗が続く。

「就任してからすぐにはチームの雰囲気に入り込めなかった。関西人の僕がボケても、誰も突っ込んでくれないし(笑)。各選手、一生懸命だけど、それでもフットサルに関わる熱意や質が僕の基準と異なっていた。ただそれを押しつけはできないし、時間がかかる部分でした」

クラブに新たな歴史を刻んだF2初勝利


チームは、けが人や退団選手が出て、試合で「セット」(フィールドプレーヤー4人組)が2つ組めない状況にもなり、6連敗してしまう。「やる気があるのか」との声が、対戦チームからも聞こえてくる苦しい時期が続いた。

連敗を脱出したのは7節に対戦した古巣・デウソン神戸戦。チームを牽引する霜出聖也選手と岡本生成選手がゴールを割り、2-0で前半を折り返す。後半は押し込まれたが、なんとか1失点に抑え、2-1で勝利した。シーズン初勝利であり、浜田が挙げたF2初勝利という歴史を刻んだ瞬間だった。

「負けが続いても選手は前向きに取り組んでいたし、自分の方向性に迷いはなかった。デウソン神戸は浜田と同じぐらい若いチームで、ここで勝てないと、自分が浜田に来た意味がないと感じていた。勝って嬉しいというより、自分の首の皮がつながった安堵が先にきました」

昨シーズンには選手不足を補おうと、監督自身のツイッターで、「Fリーグに挑戦したい将来有望な若者はいないだろうか。社宅があって社員雇用してくださるスポンサー企業様もいらっしゃいます」と投稿した。Fリーグの監督としては異例の呼びかけで、関東リーグの選手入団にもつながった。現在、スポンサー企業で選手4人が働いているという。

「ポルセイド浜田の知名度や人脈で、有望な選手を呼んでくるのは難しい現状があった。それなら僕自身が呼び掛けた方が、つながりのある人が反応してくれたり、情報が拡散されたりすると考えた。埋もれている才能のある選手は全国にいる。Fリーグにチャレンジしたい人に門戸は開いておきたかった」

選手の成長とサポーターの組織化目指す


浜田は19-20年シーズンを2勝1分11負、8チーム中7位で終えた。ただリーグ後半でも、F1に昇格したY.S.C.C.横浜やボルクバレット北九州との差は大きかった。ホーム戦の観客数は400~500人台で、集客面でも課題は多い。

「順位は4位が目標だったが、上位陣には歯が立ちませんでした。ただ戦術的にほぼ白紙だった状態から、変化は与えられた。ホーム戦でユニホームを着て応援してくれる個々のサポーターさんは増えてきたけど、サポーターグループは、まだ存在していません」

シーズン終了後、チームの中心だった霜出選手が退団。攻守の要としてゲームを動かせた主力がいなくなったが、積極的な情報発信の成果で選手やコーチの新加入も発表された。

「霜出の穴は簡単には埋められないが、浜田出身の岡本(アラ)や布田有祐(ピヴォ)、橋岡翔大(フィクソ)あたりが、自分がチームを引っ張っていく意識がどこまで出てくるかが、新シーズンのカギになる。昨シーズンで勝つ喜びも、その難しさも知った選手たちの成長を楽しみにしたい」

山本監督はシーズンオフに、自身がFリーグの選手経験がないまま、Fリーグの監督を務めるに至った経緯をブログでつづるなど、情報発信に熱心だ。専門的にならずに、フットサルの入り口にいる人や、これからフットサルをやってみようという人に役立つ内容にするつもりだ。

「島根県内でみてもポルセイド浜田の知名度はまだまだ。フットサルをプレーする人に、試合を観戦してもらえる段階には至っていません。浜田というクラブを、自分を通してでも、知ってもらいたい。エリート選手でなくても、監督になれる。チャレンジする姿勢を感じ取ってもらいたい」

新型コロナウイルスの感染拡大防止でF2リーグの日程も不透明になっている。普段の練習で使用する体育館は浜田市中心部から車で10分ほど離れた山手にあるが、全国に発令された緊急事態宣言で各選手の自主トレーニングもストップし、新シーズンに向けた全体練習も1度もできていない。

「フットサルができないのは、精神的にも本当にキツイ。夜の練習後に体育館を出ると、夜空を見上げるんです。周りに光も無くて、たくさんの星がキラキラと見えて。豊かな自然に囲まれた浜田でのフットサル中心の生活が、今はただ待ち遠しいですね」

ポルセイド浜田で監督として迎える2シーズン目。1つでも多くの勝利をサポーターらに届けるために、この地で力の限りを尽くす。

(了)

◆やまもと・なおき。1983年生まれ、兵庫県西宮市出身。26歳で「個サル」で、フットサルに出会う。27歳で指導者の勉強を始め、フットサルB級ライセンスを取得。デウソン神戸アスピランチ(セカンドチーム)の監督から、トップチーム監督に就任。最高順位はFリーグ(現在のF1)7位、全日本フットサル選手権4位。ブログ(http://naoki-futsal.com/)。

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